キャタピラージャパンについて ABOUT CATERPILLAR JAPAN

プロジェクトストーリー

ゲームチェンジャーを目指し、世界各地のサプライヤー/
ディーラーを巻き込んでの次世代プロジェクト

  • 釘貫 勢也
    Kuginuki Seiya

    油圧ショベル開発本部 車両計画部 中型機計画課 課長
    1994年入社
  • 福家 淑也
    Fuke Toshiya

    油圧ショベル開発本部 実験部 車両試験課 課長
    1992年入社
  • 黒川 将史
    Kurokawa Masashi

    明石事業所 製造部 組立課 課長
    1998年入社
  • シンディ―・ゴウ
    Cindy Goh

    GCI Global Marketing Project Manager
    2006年入社
2017年10月、キャタピラーは次世代油圧ショベル『Cat320』シリーズ3機種を世に送りだした。設計思想に立ち返っての新機種投入は、1992年に300シリーズが発売されて以来25年ぶりであり、業界の注目を集めた。もちろん、その間にもキャタピラーでは新機種開発を継続的に行ってきたが、それらは世界各国の排ガス規制に対応する、いわば必要に迫られてのマイナーチェンジだった。しかし今回はまったく新しく、自由な発想からの開発である。開発全般のエンジニアリングで陣頭指揮を執った釘貫は「マーケットにおいてゲームチェンジャーとなるため、カスタマーが驚く性能・機能を持たせる事を第一にプロジェクトを進めました」と語る。ゲームチェンジャーとは単に売れる製品というだけではなく、その登場によって業界の規範や常識迄も変えてしまうインパクトのある製品の事だ。
キャタピラーの強みは開発・製造の豊富な経験値と、それに裏打ちされた技術力、そして世界中のカスタマーの声に接している点である。その独自の強みによって新機種開発のコンセプトが自ずと導き出された。いままでの油圧式ショベルは、オペレーターの習熟度によって性能が大きく左右されていたが、『Cat320』シリーズでは様々なテクノロジーを導入することで、ショベルを用いた作業において容易に生産性の効率化を図る事ができる。
また、『Cat320』はいままでの機種とはデザイン自体がまるで違う。搭乗者の右サイドの視界性が格段に良くなっているが、これを実現するために燃料タンクの高さを下げている。従来の金属製のタンクではこれはできなかった。業界の常識を破ってプラスチック製のタンクを用いたからこそである。この低くなった燃料タンクは搭乗の際のステップになる。今迄の機種は片手で把手を掴んで身体を引き上げていたが、『Cat320』は両手が使えるよう二本の把手があるため格段に乗り込み易い。
そうしたアイデアは、社内でベテランから若手まで、自由に意見を出し合う中から生まれたのだという。「新しい事にチャンレンジする企業文化があればこそでしょうね。」と、釘貫は大きく頷く。
ゲームチェンジャーとなるには製品の性能だけではなく、市場投入のタイミングが非常に重要だ。企画立ち上げの段階から2017年のリリースは、明確なゴール地点だった。そのため、企画段階からすでに社内各部署が動き始めていた。製造を率いた黒川は「設計と綿密な意見交換を行い、より製造性の良い製品へ作りこんで行きました」と述懐する。これまでは、設計から回ってきた図面通りに作る事が製造の主たる役割ではあったが、従来よりも早い開発段階で製造の効率化を図るよう、設計へと提言する手法を執っていた。黒川はさらにこう続ける。「試作のスケジュールを圧縮するために、複数台を並行して試作する体制の構築を行いました。具体的にいうと試作エリアの確保と、試作によって製造要求を抽出する役割に優れた人材をまわし、その人材が抜けた既存機の製造ラインのポジションに新しく採用した人材を充てるということです」。
コンポーネントシステム試験課の動きも迅速だった。当時、同部署のリーダーだった福家は次のように語る。
「いままでのやり方だと間に合わないと懸念し、課内で評価改善活動を実施しました。皆で評価を効率化できるアイデアを出し合って検討。一例を挙げると、いままでは明石の製造ラインで組み立てた装置を実験部門で一旦分解して、試験準備を行って再度組み立てる手順だったのを、製造部門と協業して、最初の組み立て時にその場で併せて試験準備を行い、すぐに試験を実施する方式を採用したことで劇的な試験準備期間の短縮が図れました」。
また試験設備に関しても、キャタピラーの設備だけに拘らず、部品を提供しているサプライヤーの設備活用を積極的に行った。
「もちろん試験の品質を確保するため、私たちがサプライヤーへ出向いて設備と試験人員を確認し、情報共有も綿密に行いました。サプライヤーは世界各地にありますので、ずいぶん飛び回りました」。
世界中のディーラーと協業しながらのGo to Market戦略策定と準備作業は、320 NPI(New Product Introduction)を開始する18カ月前から始まった。シンディー・ゴウは、スペシャルアサインメントとして、次世代油圧ショベルのGo to Market全体を統括するプロジェクトリードに任命され、マーケティング部門(GCI)や事業に参画するパートナーと緊密に協力しながら、この一大プロジェクトを進めていった。
「効果的なGo to Marketを達成するためには、小売/レンタル/テクノロジー/トレーニング/デジタルファースト/セグメンテーションマーケティング/製品サポート―この7つのワークストリーム全ての準備が求められます。今回のようなコンセプトから一新した機種の場合、初期段階からディーラーと連携することが必須。地域によって異なる顧客や市場からの要求に応えながら、地域毎に発売日を決めていくプロセスは、私たちにとっても挑戦でした」。
会社内、特に製品部門とマーケティング部門間での、密接な協力やタイムリーなコミュニケーションは、世界中のディーラーとGo to Marketを完璧にこなす為に必要不可欠だった。
「『Cat320』における大幅な仕様改定に対応する為、キャタピラーとディーラーの組織全体で、対話型モバイルプラットフォームとバーチャルリアリティツールを使用した、オンデマンドの継続的な学習を推進しています。年1回の座学による製品トレーニングに加えて、『Cat320』独自のトレーニングには、製品サポートとオペレーションに関するトレーニングも含まれています。」
釘貫、黒川、福家たちプロダクト側の人間や、ゴウを代表するマーケティング側の人間も口を揃えて言うのは『Cat320』が市場に出た瞬間の特別な感慨である。キャタピラー社内だけではなく、世界各地のサプライヤーもディーラーも、このプロジェクトを走り抜いた喜びを共有できた。そして、困難なチャレンジであっても前向きに取り組み、走りながら考え、ハードルに直面しても立ち止まらずその場で柔軟に乗り越える。キャラピラーならそれが可能だと、はっきりと実感できたのである。
若い人材もこのプロジェクトを通じて、自信とスキルを身につけることができた。すでに『Cat320』の後続機開発が動き出している。チャレンジの機会はこれから益々増えていく。
部門長メッセージ
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